『 雪祭にて ― (3) ― 』
パチパチパチ・・・
ゴ −−−−−
アルベルトが 薪を一本、放り込む。
暖炉の炎は 再び勢いよく踊り始めた。
「 ・・・ あ ・・・ あったかいなあ・・・
火って こんなに暖かいんだね 」
ジョーは 茜色に燃え上がる炎をじ〜〜っと見つめている。
「 ふん ・・・ 」
「 ・・・ フラン ・・・ あそこなら凍えることもないと
思うけど ・・・ごめん ・・・ すぐに迎えに行くって言ったのに・・・ 」
なんだか涙声のジョーに アルベルトはため息をかみ殺した。
「 おい。 その城のことだがな 城壁の中は温かい と言ったな? 」
「 ウン。 伯爵は地下に温泉があるからって 言ってたけど・・・
雪もなくてさ 春みたいだった 」
「 この地域には火山でもあるのか 」
「 ・・・ そんなハナシは聞いてないよ
それならとっくに地元でも利用してるはずだよね 」
「 ふん ・・・ じゃあ その城の 一部限定地域のみの
温暖化 のエネルギーはなんなんだ? 」
「 う・・・・ん ・・・? 自然のものじゃないのかな?
でもね 本当に温かくて花がいっぱい咲いててさ・・・
使用人風のひとたちも 真冬の服装ではなかったよ 」
「 ふうん なんらかの巨大な熱源を利用しているらしいな。 」
「 あの城の規模なら ・・・ 活火山くらいしか考えなれないけどね
もし 自然エネルギーならば 」
「 ふん。 やはり気付いていたか 009。 」
「 うん まあね。 ― ちょっと不自然すぎる ・・・ 」
「 とにかく 行動に移すのは吹雪が小康状態になってから だ。
今 出ていったら 俺たちでも危ない 」
「 ・・・ だけど! 今まで 南極にも行ったじゃないか〜〜
ミッションでさ 」
「 < ミッションで > な。
防護服を着用していたし 俺たちにはドルフィンが あった。 」
「 ・・・ それは そうだけど ・・・ 」
「 俺もお前たちも < 普通のヒト > としてここに来てるんだ。
吹雪が荒れれば 慌てて退散し 雪崩に遭えば 命を失う・・・
か弱い生き物 として な 」
「 ・・・・ 」
「 そう焦るな。 その城とやらに保護されているなら
フランは 当面の間 無事だろうさ 」
「 ・・・・ 」
「 待つんだ ジョー。 自然が相手だ 仕方ない。 」
ゴォ ・・・・・・ ッ
太い薪が一本 真っ赤になり燃え落ちた。
ぱあ〜〜っと火花が舞いあがり 一瞬 ジョーたちの顔を
明るく照らしだした。
炎の明かりをうけ 部屋の中は暖かすぎるほどだ。
しかし その背後では ―
ヴュウ −−−−−−−
堅固な現代の建物の窓をも 揺らす雪の嵐が吹き荒れているのだ。
「 ・・・・ 雪祭 ・・・ 楽しみにしてたんだ ・・・ 」
「 あ? ああ ― そうだな
この時期にカーニバルとは 珍しいからな 」
「 うん。 一緒にさ 楽しもうって君を誘ったんだけど ・・・
フランもさ 久し振りにゆっくり会えるわ って楽しみにしてて・・・
それなのに。 ゴメン 迷惑のかけっぱなしだね
」
「 ふふん いつものことじゃねえか 」
「 あ・・・ そうかも ・・・ 」
「 そうかも じゃねえだろが。 」
「 あ うん ・・・ ごめん ・・ 」
「 ふん。 でもな 声をかけてくれてありがとうよ
久々 お前たちに会えるって ミッション以外で ― 嬉しかった 」
「 そっか〜〜 ・・・ よかったあ ・・・
それに さ。 あ あのう 報告したいこと あって。
そのう ぼくたち二人から ・・・ うん そのう〜 」
「 ああ? おい しゃっきりしろ! 」
「 あの ・・・ ぼく達 婚約したんだ 」
「 ・・・ ・・・・・ 」
ごとん。 弄んでいた薪が 床に転がった。
「 なんでそんなに驚くのさ!! 」
「 いやあ〜〜〜 雪崩以上の驚きだああ 」
「 ・・・ちぇ ヒドイなあ 」
「 ははは 冗談さ ― おめでとう! 」
「 え えへへへ ・・・ ありがとう!
ちゃんとしなくちゃ・・って。 ずっと 思ってて・・・ 」
「 おうおう なが〜〜〜い春だったぜ? 」
「 ・・・ う ん ・・・ ごめ・・ 」
「 そりゃ フランに言ってやれよ 」
「 ・・・ うん ・・・ 」
「 な〜るほど〜〜〜 これは 婚約旅行 でもあるのか〜〜 」
「 あ でもね! 君に会いたかったってのは本当で 」
「 ああ ああ わかったよ 」
「 ちょうど演奏ツアーがあるからって フランが言ってさ。
終わったら合流してもらえるかも って。
それでこの地域の雪祭りを見ようかってことになったんだ 」
「 なるほどな。 雪祭り のことはウワサには聞いたことがある。 」
「 ふうん わりと有名なのかな 」
「 おそらくな そのわりには 実際に見たニンゲンは少ないんだ。
なにせ豪雪地域だから気楽には来られらないし 」
「 うん 確かに すごい雪だよね〜〜
北極にも南極にも行ったけど ― こんなじゃなかったね 」
「 ああ。 白い魔物 という言い方もわかる気がする 」
「 ウン。 ― アルベルト。 少しでも吹雪が弱くなったら 」
「 勿論だ。 なんならドルフィンを呼ぶか。
今なら ・・・ ジェットが飛ばしてくるだろう 」
「 ・・・ いや それは。 ぼくの責任だから。
ぼくがなんとかする。 ごめん ・・・ 協力してください。 」
「 馬鹿。 当たり前だろうが。
お前が持っている限りのデータを開示しろ。 作戦会議だ 」
「 ん。 」
「 フロントでこの地域の拡大地図を借りてくる。 」
「 サンキュ。 ぼくのデータをアウトプットしておくね 」
「 ああ。 」
― ガサゴソ フロント係は すぐに地図を出してくれた。
「 お客さま え〜と こちらでは如何でしょう? 」
「 あ〜〜 ありがとう、ちょっと借りていいですか 」
「 どうぞ どうぞ。 お持ちください 」
「 ダンケ。 あ 雪祭り ってこの地域だけの催しですかね 」
「 はい。 真冬のカーニバルって珍しいでしょう?
この大雪ですが・・・ 祭の期間は毎年なぜか吹雪が止むのですよ。
その合い間に 皆で踊って楽しむんですが 」
「 ほう それは面白いですね 」
「 はい! 是非是非 お出かけください 今年は ○日からです 」
「 なるほど。 」
アルベルトは さりげなくチップを置くと暖炉の側に戻った。
「 ほれ。 地図だ 」
「 ・・・ん〜〜 ・・・ あ ありがとう!
う〜〜ん ・・・えっとぼく達 この道を滑っていったんだから 」
ジョーは 自身のデータを地図上に照合し始めた。
ごとん ごとん。
先ほどの老人が新しい薪を暖炉の脇に積み上げている。
アルベルトは ちらりとその様子を見ていた。
「 ジョー。 ちょいと付き合え 」
「 ・・・ う〜ん ・・・ え? なに? 」
「 一緒にハナシを聞こう。 こういうコトは 現地のニンゲンに
聞くに限るのさ 」
「 ? ・・・ あ 雪祭り のこと? 」
「 ふん ・・・ やあ ありがとう、ご苦労さんですな・・・ 」
一服 どうです? と アルベルトは撒き運びの老人に煙草を指しだした。
「 あ ・・あ? 」
「 よく燃えてる・・・ちょいと一休み しませんか 」
「 ・・・ こりゃ すまん な 」
老人は ほんの少し表情を緩めると暖炉前の端に腰を下ろした。
「 すごい雪ですよねえ〜〜 毎年こんな感じなんですか 」
ジョーも かる〜〜い雰囲気で話に加わる。
「 ・・・ ああ。 雪祭りの頃は な 」
「 ほう〜〜 その祭りなんですけど。 真冬のカーニバルって
珍しいですよねえ 」
「 そうだよね! 普通はさあ 真夏とか秋祭りじゃん?
ぴ〜ひゃらぴ〜ひゃら どんどんどん♪ って 」
「 ( おい! 余計な雑音 いれるな! ) ま〜 そうかも・・・
ここの祭は なんのための祭なんです? 」
「 え〜〜と? ちこっと聞いたんですけど〜 ヨツンヘイムって なんですか?
モンスターの名前かなあ〜〜 」
「 ― ヨツンヘイムに 捧げものをするんじゃ ・・・
地元の若いもんを連れてゆかないでくれ・・・とな 」
「 ささげもの? 」
「 ・・・・ 」
老人は たいそう口が重くぽつぽつと断片的なことしか
話してはくれなかった。
ゴトン ・・・ 皺深い手が太い薪を一本 加えた。
「 余計な手出しは無用じゃ。 己の巣に戻るほうがいい 」
「 あ ・・・ 」
「 わしらはそうやってアレと上手くやってきた ・・・ずっと ・・・
そして これからも な。 だから余計な手出しはせんことじゃ
それが一番じゃ ・・・ 白い悪魔を甘くみるな。
ワシが言えるのはそれだけだ コレ、 ありがとうよ 」
「 ・・・ 」
老人は ぽん、と吸殻を暖炉にくべるとまた口閉じて行ってしまった。
「 ふん ・・・ やはり な。 カーニバル というより
異類婚奇譚 ということか 」
アルベルトは 相変わらず炎を見つめている。
「 いるいこん?? なに それ 」
「 その地に巣食う魔性のモノにムスメを生贄にささげるってヤツさ 」
「 え!!! いけにえ?? 」
「 ふん。 お前さんの国にもいろいろ有名な伝説があるだろうが。
ヤマタノオロチとか 」
「 やまだ??? なに それ。 知らない ・・・ 」
「 おいおい〜〜〜 ジョー お前なあ ちっとは本を読め。
自分の国のことも知らんのか 」
「 ・・・ ごめん ・・・ 」
「 謝る必要はない。 しかし そんな地域の伝説が
その < 城 > と関係あるのだとしたら 」
「 ! ヤバいよ!! フランを そんな生贄になんか!
すぐに助けに行こう! 」
ガタン! ジョーが立ち上がった弾みに薪が崩れた。
「 こら、慌てるな。 ここは作戦を立てて進まないと な 」
「 だけど 生贄って ! 」
「 おいおい? その城主の伯爵とやらは 預かっておく
迎えにくるのを待つ、と言ったのだろうが 」
「 あ ・・・ うん ・・・ 」
「 それなら 尚更慎重に行かんとな。 あちらさんはこっちが
再び来る、とわかっているわけだから 」
「 ・・・ そうだね ・・・
う〜ん ・・・ なかなか感じのいいヒトだったんだけど・・・
温厚な紳士っていう? ちょっと古めかしい恰好だったけど 」
「 古めかしい? 」
「 ウン。 周りにいたヒト達も・・・ 女の人は皆長いスカートだったし
そうだなあ〜 あ ほら グレートがよくやる芝居みたい 」
「 ふん・・・? それでいて城の内部は 春 か。 」
「 そうなんだ。 なんか広いらしいよ 」
「 ふうん ・・・ そうか。
とにかくまず城の位置を割り出そう。 データは? 」
「 うん これさ。 あ 送ろうか? 」
ジョーはつんつん・・・と自分のアタマを突いた。
「 いや 地図が紙面だから このままでいい。 う〜ん・・・? 」
「 ここが ― このホテルだね? 」
「 ああ
」
二人は 暖炉の前で地図を広げ ― 遠目には 寛いでいる風だが ―
実際は ハイ・スピードでデータの共有と近隣の情報を収集していた。
とにかく ― その城に行き付かなければ!
パチパチパチ ・・・ 薪は気持ちよく燃え上がる。
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〜〜〜〜♪♪ ♪♪♪ 〜〜〜
自然に脚が動きだす ・・・ みたいなメヌエットが流れている。
優雅なピアノの旋律にあわせ 少女はゆっくり身体を揺らし始めた。
「 ふんふ〜〜ん ・・・ わあ ステキ!
ねえねえ しぜんにあしがうごくわ〜〜
おねえさま ・・・ エミリのダンスはいかが? 」
「 ふふふ・・・ エミリさん、ダンスがお上手ね 」
「 お姉さまこそ ピアノ・・・ お上手! 」
「 ありがとう ・・・ 兄に習ったの 」
「 お兄様は ピアニスト? 」
「 ええ ・・・ あ? 」
白銀の髪の < 兄 > の姿が浮かぶが 同時に
金髪の鋭い青い瞳の青年の顔が浮かんだ。
兄さま ・・・? え ・・・?
ヘンねえ ・・・ なぜ 二人も浮かぶの・・・?
わたしには兄が 一人。
あ ら??
ピアノを教えてくれた兄 ・・・ ううん ううん
飛行機が大好きで
いつか大空飛ぶんだ〜って 子供のころから言ってた兄 ・・・
― わたしの 兄は ・・・
銀の髪の 少し歳の離れた ・・・ いいえ。
同じ金髪で青い瞳で。 空に憧れた・・・
・・・ えええ ???
ピアノの音が止まった。
自分の手を繁々と眺めてみる。
この指の持ち主は ― 誰・・・?
・・・ ねえ わたしって 誰?
「 ・・・・ 」
「 お姉さま ・・・ エミリ、なにか失礼なことを
お聞きしました? 」
気付けば 水色の瞳がじっと覗きこんでくる。
「 ・・・ あ ああ ・・ ごめんなさい ・・・
ぼんやりしてしまって ・・・ 」
「 お疲れですか お姉さま 」
「 え いいえ いいえ。
途中で止めてしまってごめんなさいね。 え・・・っと
では なにか元気のでる曲を弾きましょうか 」
「 う〜〜ん こう〜〜ね ふわ〜〜んってゆれる曲がいいデス 」
「 そう? では ワルツを 」
♪♪♪ 〜〜〜〜〜〜 ♪♪♪〜〜〜
白い指が軽く鍵盤の上をすべってゆく。
「 わ あ・・・ これもすてき〜〜〜 」
「 いち に さん いち に さん・・って 〜〜〜
ほらほら エミリさんの脚がうごきだしますよ 」
「 え あ あ 本当だわ!
すごいすごい〜〜 フランソワーズお姉さまのピアノって
まほうみたい〜 」
「 お上手ね エミリさんはダンスがお好き? 」
「 だいすき! 今まであんまりしらなかったけど・・・
おねえさまのピアノだと すぐに脚がうごきだします。 」
「 ふふふ・・・ では これはいかが? 」
「 え・・・ わあ〜〜〜 」
元気なポルカに合わせ 少女はぴょんぴょん跳ねはじめた。
「 きゃ ・・・・ すてき すてき 〜〜〜 」
ピアノ室の瀟洒な壁紙に 少女の影が踊っている。
甲高い歓声が音楽といっしょに流れていった。
カチン。 銀のティーセットがテーブルで光る。
立ち上る湯気がいい香を部屋中に広めてゆく。
温かい陽光が降り注ぐ中 伯爵夫妻はティ―タイムを楽しんでいる。
「 ほう・・・ 今度はポルカか 」
伯爵は笑みを浮かべたまま カップを取り上げる。
このサンルームにも ピアノの音と歓声が聞こえてきている。
「 ええ ・・・ なんだか楽しくなりますわね 」
向かい側で夫人も 微笑む。
「 エミリはマドモアゼル・フランソワーズが 大好きのようですわ。
ずっと側に纏わりついていますの。 」
「 おやおや ・・・ 迷惑をかけているのではないか 」
「 マドモアゼルはとても優しい方で ・・・
ちゃんとエミリの相手をしてくださっています 」
「 そうか ・・・ 性格もよい方なのだな 」
「 ええ。 ねえ あなた。
あのマドモアゼル、とても綺麗なフランス語だわ。
エミリの家庭教師 お願いしたいですわ。
社交界では 流暢なフランス語は必須条件ですからね 」
「 うむ・・・ エミリも もうそんな年頃か・・
彼女は 良い家柄のマドモアゼルのようだな 立ち居振る舞いも優雅だ 」
「 ですわよね。 エミリにお行儀も教えていただきたいわ。 」
「 そうだな。 ピアノやダンスも ・・・できれば だが。 」
「 ピアノは ほら・・・ とてもお上手ですわ。
エミリがもう大変なの・・・
おねえさま おねえさま〜〜 って 」
「 ははは エミリが懐くのなら安心できる人柄だ 」
「 ええ ええ それとなく伺ってみましょう 」
「 そうしておくれ。 」
「 あなた。 ・・・ < 一緒に > 連れてゆきます? 」
「 ・・・ ふうむ。 それも 考えているが・・・
あ ああ いや 彼女には許婚者がいるのだよ。 」
「 まあ そうなんですの?
・・・ ああ そういえば左手に綺麗な指輪をしていますわ。
あれは たぶん ガーネットかルビー ・・・?
貴方は その許婚者さんをご存知ですの? 」
「 ああ。 大地の色の眼をした若者だった。
はっきりと 彼女は自分の婚約者だ と言ったな。 」
「 まあ そうなの・・・・
では、 その方も一緒に、というのは如何? 」
「 ふうむ ・・・ そうだなあ。
では ― そのためにも少し城門を開く か 」
「 ええ ええ! 新しいカップルが来てくだされば ―
ここも 賑やかになりますわ 」
「 うむ。 新しい血脈も必要だ 」
「 ― ええ。 」
パタパタパタ −−− 軽い足音が近づいてきた。
「 お父様 お母様〜〜〜〜 入ってもいいですか 」
歓声の後に どんどんどん 賑やかなノックが聞こえた。
「 まあ エミリったら・・・・ 」
「 ふふふ ・・・ お入り エミリ 」
「 はあい あ。 シツレイしまあ〜す♪ 」
カララ −−− サンルームのガラス扉が開いた。
「 おとうさま おかあさま! ごらんになって!
エミリの育てた薔薇〜〜〜 ほうら こんなにいっぱい咲きました 」
声と一緒に 香とピンクの薔薇が入ってきた。
「 あらあら エミリ
」
「 おかあさま! はい! 」
少女は 花束を母親に差し出した。
「 今ね 温室で摘んできたの。 朝摘みの新鮮な薔薇よ
― どうぞ 」
「 ああ これは美しいなあ 」
「 でしょ? おとうさま。 どうぞ。 」
「 ありがとう エミリ。 お前も ・・・ 」
「 うん! あ はい。 」
ほわああ ・・・・ん ・・・・
薔薇の花束を中心に 家族三人が少し身を寄せる。
しゅるるる ・・・ しゅ ・・・・
なにかとても明るい光の粒が 花々から吹き上げ ― それは
伯爵と伯爵夫人 そして 令嬢に降り注いでゆく。
三人の姿は 光に包まれ全体いほう〜〜〜っと光っている。
― カタン。 サンルームのドアが微かに開いた。
「 ― あの 失礼しま・・・?
え! ??? ・・・・ な に ・・・ 」
ドアの前に 水色のドレス姿でフランソワーズが立ち尽くしていた。
「 ― ん ・・・? ああ マドモアゼル これは失礼。 」
最初に 戸口にいる彼女に振り向いたのは伯爵だった。
「 ・・・ あ あ あの ・・・・ 」
「 どうなさったかな? 」
「 ・・・ あら。 マドモアゼル・フランソワーズ。
どうぞ こちらへいらして?
ごめんなさい、 家族で薔薇の香を愛でておりましたの。 」
伯爵夫人も にこやかな顔を向けてくれた。
「 あ ・・・ おねえさま!
いまね エミリが育てたお花をおとうさま おかあさまと
ごいっしょに見ていたの 」
少女は さっきと少しも変わらない笑顔なのだ。
・・・ なんなの・・・・?
あのひかり ・・・
確かに 薔薇の花から吹き上げていた わよね?
伯爵も夫人も エミリさんも
・・・ なんか光り輝いている・・・
フランソワ―ズは まじまじとこの家族を見つめてしまう。
その活き活きとした強いオーラに 視線を絡め取られてしまった。
・・・ ああ どうして?
どうして こんなにキレイなの??
! そんなに見ては失礼よ
目を逸らせなければ・・・ ああ でも
引きこまれてしまう ・・・
「 マドモアゼル、 ピアノがお上手ですな 」
伯爵がにこやかに話しかけてきた。
「 ・・・ え あ ・・・ はい ・・・
ありがとうございます。 」
「 素晴らしい。 よほどよい先生にお付きなのですね 」
「 あ いえ ・・・・ あのう 兄に習いました。 」
「 ほう・・・ それは それは ・・・
兄上はピアニストさんですか 」
「 あ は はい ・・ あ? 」
ピチン。 心の中で 小さな音がした。
「 ・・・・? 」
「 よろしければ 娘に手ほどきをしてくださいませんか 」
「 あ あの・・・? 」
「 マドモアゼル。 貴女のその美しいフランス語を
エミリにも教えていただけたら ― とても嬉しいですわ 」
「 え ・・・? 」
「 おいおい許婚さんも お迎えにいらっしゃるでしょう。
それまでの間 私の娘の家庭教師をお願いしたいのです。 」
「 わたし が ・・・ 」
フランソワーズは 言葉がでてこない。
伯爵夫妻は親切で令嬢は可愛いし この城は居心地がよい。
< 婚約者 > を待つには 最高の場所 なのだが・・・
なにか 大きなカタマリが彼女の心を占拠している。
「 あ ・・・ あの ・・・ 」
「 ああ すぐにお返事はできませんわよね。
ごめんなさい。 では 晩餐の時にでもお返事頂けますかしら 」
「 そうだな。 マドモアゼル どうぞ のんびりしてください。 」
「 ・・・ はい ・・・ 」
「 おねえさま〜〜 またピアノを弾いてくださいな 」
エミリは 熱心にフランソワーズの手を引く。
「 ・・・・ 」
「 おとうさま おかあさま? おじゃましました〜〜
さあ おねえさま 」
「 ・・・・ 」
伯爵夫妻に会釈を送り フランソワーズはピアノ室に戻った。
ピアノ室にも 陽の光がいっぱいで ふんわりとよい香がただよっている。
フランソワーズは 再びピアノの前に座った。
「 あら ・・・ ここにも薔薇が・・・ 」
「 ええ 家中に薔薇があるの。 でもね 摘みたてが最高なのよ。 」
「 最高? 」
「 そうなの。 ねえ フランソワーズお姉さま 」
エミリはフランソワーズの膝元に身を寄せ じっと見上げてきた。
「 はい? なんでしょう エミリさん 」
「 おねえさま ― いっしょに ゆく?
エミリたちといっしょに ずっとゆく? 」
水色の瞳が真剣な光を湛えている。
「 ― え 」
Last updated : 08.17.2021. back / index / next
********** 途中ですが
うわ〜〜 まだ 終わらない ・・・・!
すいません〜〜 あと少し 冬景色とお付き合いください <m(__)m>
93 なかなか 一緒になれませんです ・・・ (;´Д`)